2013年12月16日月曜日

(ショートショート)喪失

今日もまた孤立した世界で、誰の目にも触れることのない文章を書き綴っている。
つながっていて当たり前の世界は唐突に終わりを告げた。

オフライン。

今、外は嵐だろうか。全ての憂鬱は打鍵音がかき消してくれればいい。

直接伝わってくる感情は生々しくて苦手だった。
直接伝える感情は他人にしか見えないトゲがないか心配だった。

僕らは便利という言葉が大好きだ。
その代わり、便利の裏にある不便にはとてつもなく鈍感だ。

トントン。

「あら、あなた。今日もまた書いているの?」
「あぁ」
「コーヒー、ここに置いておくわね」
「うん」

バタン。

もっと話せばよかっただろうか。
もっと話したかっただろうか。

今の僕にはそれを判断することも難しい。

意味がない行為だとわかっていて、今もまたキーを叩く。
いつか遠い未来の誰かが、僕のことを理解してくれることを祈りながら、
文章の保存は、やはりテキスト形式が無難だろうか。
逃避を含んだ夢想の中で、僕は嵐に吹かれる。

傷つかない為に傷ついていた。
傷つけない為に傷つけたいた。

でも、完全な代替手段によって、完全に衰えた僕の何かが妨げる。
打鍵音は速さと強さを増す。
打ち込む文字が尽きた僕は仕方なくコーヒーを飲む。

ミルクが多い。

僕はしばらくマグカップをじっと見つめた後、
妻に話しかけてみようと、意を決して席を立った。

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